大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(行ケ)120号 判決 1996年3月26日

東京都大田区田園調布3丁目30番9号

原告

牛山善政

同訴訟代理人弁護士

吉村仁

同 弁理士

吉村悟

東京都文京区湯島2丁目15番3号

被告

株式会社硝英製作所

同代表者代表取締役

鹿野富雄

同訴訟代理人弁護士

吉澤敬夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成6年審判第13215号事件について平成7年3月27日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)に定める商品区分第10類「理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具、これらの部品及び附属品、写真材料」とし、別紙に表示する構成のとおりの登録第1978898号の1商標(昭和53年4月28日登録出願、昭和62年8月19日設定登録。ただし、指定商品「医療機械器具」につき、昭和63年10月24日付け登録により分割譲渡後のもの。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

被告は、平成6年8月2日、原告を被請求人として、商標法50条1項の規定に基づき、本件商標の指定商品中「理化学機械器具」について登録取消審判を請求し(以下「本件審判請求」という。)、同年8月30日、同請求の登録がされた。

特許庁は、本件審判請求を平成6年審判第13215号事件として審理した結果、平成7年3月27日、「登録第1978898号の1商標の指定商品中「理化学機械器具」についてはその登録は、取り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月8日原告に送達された。

2  本件審決の理由の要点

(1)  本件商標の構成、指定商品及び登録日は、前項記載のとおりであり、本件商標は、現に有効に存続しているものである。

(2)  請求人(被告)は、結論同旨の審決を求め、その理由として、本件商標は商標法50条に該当するものであると主張した。

(3)  被請求人(原告)は、何ら答弁していない。

(4)  よって按ずるに、商標法50条による商標登録の取消審判の請求があったときは、同条2項の規定により、被請求人において、その請求に係る指定商品について当該商標を使用していることを証明し、または使用していないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れない。

しかるところ、本件審判の請求に対し被請求人は、何ら答弁、立証するところがない。

したがって、本件商標の登録は、商標法50条の規定により指定商品中の「理化学機械器具」についての登録を取り消すべきものである。

3  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、被告の請求人適格の点について、利害関係の主張がないのに請求人適格を肯定した等の違法があり、かつ、不使用の点についても、要件事実の主張が足りないのに不使用取消請求を認容した等の違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(請求人適格)

<1> 被告は、本件審判段階において、本件商標の不使用取消請求をすることについて利害関係を有することを主張、立証しなかったから、被告の本件審判請求は却下されるべきであった。

すなわち、審判手続においては、民事訴訟手続が準用ないし類推適用されるところ、民事訴訟法における訴訟要件に対応するものの1つである請求人適格は、本案審理に入って審判追行をする煩わしさを免れさせ、本案の審判追行から被請求人に生じる損害を最小限に止めるという点で、被請求人の利益の保護をも保護している面があるものである。したがって、準用ないし類推適用される民事訴訟法からしても、審判の先例(甲第8号証等)からしても、本件審判請求の審理を担当した審判合議体は、本件審判請求を却下すべきであった。

ところが、審判合議体は、請求人適格の点について判断をすることが必要であることを看過し、被告の請求人適格の点について何ら判断することなく、本件審決をしたものである。

なお、被告の本件審判請求書(甲第2号証)には、被告の昭和43年9月12日付けの「商標登録願」の写しが添付されているが、この出願(以下「昭和43年出願」という。)を根拠に利害関係の点について黙示の主張があったと認定することは、訴訟資料と証拠資料の峻別を大前提とする弁論主義の下では許されない。

<2> 仮に、上記<1>の黙示の主張が許されるとしても、本件審決は、利害関係について全く言及しておらず、理由不備であり、取消しを免れない。仮に、昭和43年出願の事実や後記平成6年出願の事実を根拠に利害関係を認めたのであれば、その旨を理由中に示しておかなければならないものである。

<3> 仮に、前記<1>の黙示の主張が許されるとしても、昭和43年出願は、本件商標の出願日よりも10年も前のものであり、昭和43年出願が本件商標の存在とは別個の事由により拒絶されたことは明らかであり、昭和43年出願をもって本件商標の取消しを求める利害関係ありとすることはできない。

<4> 上記の瑕疵を有する本件審決は、適正な手続を経ることなく原告の財産権である本件商標権を奪うものであり、単に違法というだけでなく、憲法29条、13条及び31条に違反する。

<5> 被告は、現在被告に請求人適格が存在することは明らかであって、審決は結論において正当である旨主張するが、東京高等裁判所における審決取消訴訟は特許庁の商標取消審判の続審ではないのであるから、平成6年出願の事実を本訴で新たに主張することはできない。仮にその主張を認めれば、原告は、適正な手続を受ける権利を奪われたまま財産権である本件商標権を取り消される結果となる。

また、被告は、原告が平成7年12月11日付け内容証明郵便により本件商標に基づき商標権侵害を理由に被告に対し使用の停止を求めてきた事実は、本件商標の取消しにつき被告が請求人適格を有する根拠となるものであると主張するが、本件審決についての審理終結時が利害関係の存否の判定の基準時となるから、上記基準時後の事情である上記使用停止の申入れの事実は、被告の請求人適格を根拠付けるものではない。

(2)  取消事由2(不使用)

被告は不使用取消請求を基礎付ける事実についても充分な主張をしていなかったから、本件審判請求は成り立たないとの結論がされるべきものであった。

<1> 本件商標には、連合商標として登録第2429521号商標(以下「本件連合商標1」という。)及び登録第2565089号商標(以下「本件連合商標2」という。)が登録されている。

<2> 連合商標についての主張責任は、請求人側にある。すなわち、昭和50年改正前の商標法は、請求人に対して、一般にその不使用の主張責任と立証責任の双方を負わせていた。しかし、「使用していないこと」を証明するのは、いわゆる「無の証明」できわめて困難で請求人に酷であることにかんがみて、昭和50年改正の商標法は、「主張責任を負う当事者が立証責任を負う」との原則を修正して主張責任と立証責任とを分離し、使用の立証責任のみを被請求人側に移したのである。

このような改正の経緯から、請求対象の商標の不使用についての主張責任はもちろんのこと、その連合商標の不使用についても、主張責任は請求人が負っているのである。

審判の先例も、連合商標の不使用についての主張責任が請求人側にあると取り扱っている(甲第13ないし第22号証)。

したがって、商標法50条2項括弧書きによれば、被告は、

(a) 継続して3年以上、

(b) 日本国内において、

(c) 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、

(d) (取消請求に係る)指定商品について、

(e) (取消請求に係る)登録商標を使用していない、という5つの事実に加えて、

(f) (取消請求対象の)登録商標の連合商標が存在していて、

(g) 継続して3年以上、

(h) 日本国内において、

(i) 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、

(j) (取消請求に係る)指定商品について、

(k) 当該連合商標を使用していない、

という6つの事実についても、主張責任を負っている。

<3> 被告は、上記(a)ないし(f)の事実については主張したものの、上記(g)ないし(k)の事実については、全く主張していなかったし、審判請求書及びその添付書類(甲第2号証)を見ても、上記(g)ないし(k)の事実を黙示に主張しているとの根拠になり得るものは全く存在しない。

<4> また、審決の理由中に、黙示の主張により連合商標2件の不使用の主張ありと認定した旨の記載が欠落している以上、本件審決は、理由不備であり、取消しを免れない。

<5> さらに、本件訴訟は行政処分に対する不服の救済手続であり、行政処分手続の続審(上級審)ではないのであるから、特許庁での審判手続が終了して審決が下された後に、これに対する不服の救済手続において上記(g)ないし(k)の点を明示に主張し、追完することは許されない。

仮に、上記追完が許されるとしても、その効果が審判段階の審理中の時点にまで遡及するわけではない。

<6> 上記のような瑕疵を有する本件審決は、適正な手続を経ることなく原告の財産権である本件商標権を奪うものであるから、単に違法というだけでなく、憲法29条、13条及び31条に違反する。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1及び2は認める。同3のうち、(2)<1>の事実(連合商標の存在)は認め、その余は争う。

2  反論

(1)  取消事由1(請求人適格)について

<1> 被告には、本件商標の不使用を理由とする登録取消請求をする利害関係がある。

すなわち、被告は、昭和38年の会社創立以来、理化学機器等の商標名として「エクセル」なる標章を使用している。

被告は、昭和43年9月12日、理化学機械器具等を指定商品として「エクセル」なる標章について商標登録出願(昭和43年商標登録願第64759号)をした(昭和43年出願)。

しかるに、昭和43年出願は、キャノン株式会社による先願である標章「EXCEL」についての昭和42年商標登録願第63394号が公告され、登録第1182927号商標として登録されたため、拒絶された。

その後、被告は、昭和55年3月28日、上記登録商標の不使用取消審判請求を行い、昭和56年11月25日付けで請求認容の審判を得た。

そこで、被告は、昭和55年4月18日、標章「エクセル」について、理化学機械器具等を指定商品とする商標登録出願(昭和55年商標登録願第31719号)を再度行った(以下「昭和55年出願」という。)。

ところが、原告が昭和53年4月28日に本件商標の登録出願を行っていたため、前記キャノン株式会社の商標登録の取消しにより、原告の出願が先に公告され、登録第1978898号商標として登録されたため、被告の昭和55年出願は拒絶された。

被告は、原告に対し、本件商標の分割譲渡等の交渉を行ったが、不調に終わった。

被告は、平成6年8月2日、本件審判請求と同時に、標章「EXCEL/エクセル」について理化学機械器具を指定商品とする商標登録願(平成6年商標登録願第77659号)をし(以下「平成6年出願」という。)、その手続は特許庁に係属中である。

<2> 原告は、被告は審判段階で自己が請求人適格を有することについて何らの主張も立証も行っていないと主張するが、請求人が本件商標の不使用取消請求をするについての請求人適格を有するかどうかは、審判制度を利用すること自体の可否にかかわる公益的な事項であり、職権調査の対象事項であるから、当事者がその判断の基礎となる事実を主張立証する必要はないものである。

本件審決が本件審判請求を却下することなく、審決に至ったという事実は、少なくとも請求人である被告の請求人適格を肯定した上での判断であることは明らかである。

<3> また、本件審決は、被告に請求人適格があることがきわめて明白であったため、被告の請求人適格の存在を前提に審決を行ったものと考えられ、本件審決が被告の請求人適格の点について審決書に記載しなかったからといって、何ら違法な点はない。職権調査の対象である事項について、審判段階で前提問題について全く争われず、これを否定する必要も認められない場合についてまで、必ず審決中にその判断を示さなければならないという法的根拠はなく、現にそのような場合これに言及しない審決例がほとんどである。

<4> さらに、請求人適格は事実審の口頭弁論終結の時点に存在すればよいところ、現時点において被告に利害関係があることは明らかであるから、本件審決は、少なくとも結論において正当であって、これを取り消すべき理由はない。

<5> 原告は、平成7年12月11日付け内容証明郵便により、本件商標に基づき、商標権侵害を理由に被告に対し使用の停止を求めてきた。上記事実は、本件商標の取消しにつき被告が請求人適格を有する根拠となるものである。

(2)  取消事由2(不使用)について

<1> 商標法50条2項括弧書きにいう連合商標の不使用の事実の主張責任がいずれにあるかはともかく、被告が審判請求書(甲第2号証)において連合商標についての不使用も併せて主張していることは明白である。

<2> 仮に、連合商標の不使用の点について請求人(被告)から主張がなかったとしても、その点の主張責任は被請求人(原告)にあるから、本件審決に誤りはない。

すなわち、連合商標の使用によって、商標登録の取消しを免れるとする商標法50条2項の規定は、連合商標の使用という積極事実の存在が取消しという法律効果発生の障害となることを規定するものであり、しかも連合商標の使用という事実によって使用していない登録商標も使用しているものと擬制するという例外的措置を規定するものである。

したがって、要件事実解釈の基準に従えば、取消しという法的効果発生の障害を主張するものであることから、自己に有利な事実を主張する商標権利者にその主張立証責任があると解すべきであり、また、使用という事実は積極事実であるから、それを主張する商標権利者に主張立証責任があると解すべきであり、さらに、登録商標の不使用によって登録商標が取り消されるという原則に対する例外を主張するものであるから、その事実は例外を主張する商標権者に主張立証責任があるというべきであって、いずれの観点からみても、連合商標使用の事実は商標権者に主張立証責任がある、というべきである。

<3> 被告は、予備的に、本件審判請求の登録前3年以内に、本件連合商標1及び2についても、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、指定商品「理化学機械器具」について、使用していなかった事実を主張する。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1(請求人適格)について

<1>  弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第2号証の1、3及び8並びに成立に争いのない乙第2号証の2及び4ないし7によれば、被告主張の請求の原因に対する認否及び反論2(1)<1>の事実(請求人適格を基礎付ける事実)が認められる。これらの事実によれば、被告は、本件審判請求以前から本件商標と類似すると判断される可能性がある商標「エクセル」を理化学機器等の商標として使用していたところ、本件審判請求と同時に、「EXCEL/エクセル」なる標章について、理化学器械器具を指定商品とする商標登録出願をしたことが認定でき、本件商標の不使用取消しを求める請求人適格を本件不使用取消審判請求時から有していたものと認められる。

原告は、平成6年出願の事実を本訴で新たに主張することはできない旨主張するけれども、仮に、審判合議体が平成6年出願の事実を審判段階で把握していなかったとしても、その事実は被告の本件審判請求時に既に存在していた事実である以上、それを本訴で新たに主張することを妨げる法理はないから、その主張は許されるべきである。

<2>  原告は、被告は本件審判段階において本件商標の不使用取消請求をすることについて利害関係を有することを主張立証しなかったから、被告の本件審判請求は却下されるべきであったと主張する。しかしながら、被告が本件商標の不使用取消請求をすることについて利害関係を有するか否かは、当事者の主張立証がなくとも、審判合議体が職権により取り上げて検討すべき事由であるから、原告が仮に利害関係を有することを主張立証しなかったとしても、そのことから直ちに本件審決が請求人適格を欠く者からの請求として却下されるべきことにはならない。

また、原告は、本件審決は請求人適格の点について全く検討することなく審決した旨主張する。確かに、本件審決書には、請求人である被告の請求人適格を認めた理由が記載されていないが、請求人である被告に請求人適格があることは上記<1>に説示したとおりであり、請求人適格を肯定する場合にその理由を必ず記載しなければならないものではないことからすると、本件審決が被告が審判請求書に添付した書類から知り得た昭和43年出願の事実をとらえて請求人適格を肯定したのか、職権で平成6年出願の事実を調査して請求人適格を肯定したのか等は確定できないとしても、本件審決は被告の請求人適格の点について検討を行った上で請求人の審判請求を認容していることは認められるところである。この認定に反する原告の主張は採用できない。

<3>  原告は、請求人適格の点につき、本件審決には理由不備の違法がある旨主張する。しかしながら、審決書に請求人適格についての当事者の主張や審判合議体の判断を記載するか、記載するとしてどの程度の記載をするかは、審判合議体の裁量にゆだねられた事項であるところ、被請求人において請求人適格の点について何らの答弁も主張もしなかった本件において、請求人適格の点についての当事者の主張や審判合議体の判断を本件審決書に記載しなかった本件審決の扱いを違法なものと解することはできない。

<4>  原告は、利害関係の主張がないのに請求人適格を肯定した等の瑕疵を有する本件審決は、適正な手続を経ることなく原告の財産権である本件商標権を奪うものであるから、単に違法というだけでなく、憲法29条、13条及び31条に違反すると主張する。確かに、請求人適格の点についても、請求人がその根拠となる事実を主張し、被請求人に十分反論させた上で、審判合議体が判断をし、その判断の理由を審決書に記載して示すことが適正手続等の観点から望ましいとはいえても、被請求人である原告において、何らの答弁、立証をしなかった本件においては、原告主張のとおりの審判手続でなければ憲法29条、13条及び31条に違反すると解することはできないから、憲法29条等違反をいう原告の主張は採用できない。

<5>  よって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2(不使用)について

<1>  請求の原因3(2)<1>の事実(連合商標の存在)は当事者間に争いがない。

<2>  原告は、不使用の事実についての主張責任は不使用取消請求者にあるところ、被告は審判において本件連合商標1及び2の不使用の点について主張しなかったから、本件審判請求は、成り立たないとの結論にされるべきであった旨主張する。

仮に、原告が主張するとおり、不使用の事実についての主張責任が不使用取消請求者にあるとしても、被告は、審判段階において、本件連合商標1及び2の不使用の点について主張していたものと認められる。すなわち、成立に争いのない甲第2号証によれば、審判請求書(甲第2号証)の記載は、被告代表者が行ったためか、商標法の要件とするところを条文どおりに順序よく記載したものとはいえないが、請求の趣旨として、理化学機械器具について本件商標の登録の取消しを求める旨記載され、審判事件の表示の欄にも、請求の理由(1)の欄にも、本件連合商標1及び2の存在について記載されているものであり、これらの点を前提に審判請求書(甲第2号証)を全体として理解すれば、被告は、同審判請求書において、本件商標のみならず、本件連合商標1及び2についても、継続して3年以上、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、理化学機械器具について、使用していないことを主張していたと認められる。この認定に反する原告の主張は、審判請求書(甲第2号証)中の一部の文言の解釈にとらわれ全体を見ないものといわざるを得ず、採用できない。

<3>  原告は、審決の理由中に、黙示の主張により連合商標2件の不使用の主張ありと認定した旨の記載が欠落している以上、本件審決は、理由不備である旨主張する。確かに、成立に争いのない甲第1号証によれば、本件審決書は、明示か黙示かを問わず、「請求人は、・・・その理由として本件商標は商標法第50条に該当するものであるからその登録は取り消されるべきであるとしている。」と請求人である被告の主張をまとめていることが認められる。この記載は、被請求人から連合商標の不使用の点の主張の欠如が指摘され、それが争点となっていた事案であればともかく、請求人の主張内容の記載として簡略に過ぎると解することはできず、少なくとも黙示に連合商標の点についても請求人から主張があったとの意味も含むものと解せられる。したがって、連合商標2件についての主張ありと認定した旨の記載が欠落しているとの原告の主張は採用できない。

<4>  さらに、原告は、憲法29条、13条及び31条違反を主張するけれども、その主張は、上記に説示したとおり、憲法違反を主張する前提事実を欠くものであり、採用できない。

<5>  したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。

3  よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例